インフラエンジニア歴27年。サーバー、ネットワーク、ストレージ、セキュリティ、クラウド、監視、障害対応……本当に色々なことをしてきました。
その中で、これからインフラエンジニアを目指すあなたに、どうしても伝えたいことがあります。
「資格を取るだけでは、この仕事の本質には届かない」
LPIC、CCNA、クラウド資格。どれも価値がありますし、基礎力を証明できます。でも、それはあくまで“スタートライン”です。
ここから先は、現場でしか身につからない世界があります。
インフラエンジニアの本質はサービスの「当たり前」を支える仕事
まず大前提として、インフラエンジニアの仕事は「当たり前を成立させること」にあります。
- サーバーが毎日動いていること
- ネットワークが安定していること
- データが壊れないこと
- セキュリティが守られていること
- 障害があっても復旧できること
- ユーザーが安心して使えること
これらはすべて「当たり前」ではありません。インフラエンジニアの判断・設計・運用が支えています。
言い換えるなら、
インフラは、「問題が起きない世界」を生み出す仕事。
派手ではありません。でも、欠かせない仕事です。
「資格=一人前」ではない理由
インフラ業界には、
- 「LPICやCCNAを取れば一人前」
- 「クラウドの資格があれば現場でも通用する」
といった空気があります。
正直に言います。
資格は「入り口」であって、「成果」ではありません。
資格で学べるのは「知識の断片」にすぎません。現場ではもっと複雑で、もっと泥臭く、もっと深いスキルが求められます。
現場が本当に求めているのは「選定力」
インフラエンジニアは、毎日「選択」を迫られます。
- OSは何を選ぶ?(RHEL/AlmaLinux/Ubuntu/Windowsなど)
- Webサーバーは?(Nginx/Apacheなど)
- DBは?(OracleMy/SQL/PostgreSQL/Auroraなど)
- 監視は?(Zabbix/Prometheus/CloudWatchなど)
- バックアップは?(Acronis/Veeam/ddなど)
- クラウドかオンプレか?
- 冗長化をどこまでする?
そして、これらの選択には常に責任が付きまといます。
- コスト
- 安定性
- 運用性
- 未来の拡張性
- 障害時の復旧のしやすさ
- チームのスキル
これらを総合的に判断し、「現場に最適な組み合わせ」を提案できる人こそ一人前です。
これは資格では身につきません。経験と知識と責任感で磨かれるスキルです。
インフラ設計は「安定性 × コスト × 運用性」の三角バランス
インフラは「理想」だけを追求すると、とんでもない金額になります。
逆に「コスト」だけを優先しすぎると、障害に弱くなります。
そして「運用性」を軽視すると、現場が疲弊し、いずれ回らなくなります。
インフラの設計は、この3つのバランスがすべてです。
- 安定性:止まらないこと
- コスト:お金という現実
- 運用性:人が回せること
この3つを全部見るのは、インフラエンジニアの役割です。
アプリエンジニアとは敵ではなく、「視点が違うだけ」
アプリ側とインフラ側のすれ違いは、昔からよくあります。
インフラ側から
このアプリどれくらいのスペック必要?
アプリ側から
うーん、そんなに重くはないと思います…
これは、別にどちらかが悪いわけではありません。
役割が違うから、見る景色が違うだけです。
アプリエンジニアの視点
- 仕様通りに動くこと
- バグがないこと
- ユーザー体験をよくすること
- ビジネス要件を実装すること
アプリは「実現する技術」が中心です。
インフラエンジニアの視点
- どれだけ使われても落ちないこと
- 障害が起きても復旧できること
- セキュリティが守られていること
- 運用が持続できること
- 予算に収まること
インフラは「支える技術」が中心です。
どちらも大切です。どちらが偉い・すごいという話ではなく、役割が違うだけです。
だから私は「アプリも学び直した」
実は、私自身も最初はインフラしか知りませんでした。
ですが、あるときこう思ったのです。
「アプリの世界を知らないままでは、最高のインフラは作れない」
そこから私はアプリを学び直しました。
- PythonやNode.jsによるバックエンド開発
- データベース設計とクエリのチューニング
- API設計
- フロントエンド(Next.jsなど)
- 認証・認可(Cognitoなど)
- セッション管理
- UI/UXの基礎
- 外部サービスとの連携
コードを書くときも、「なんとなく自己流」ではなく、言語の標準的なスタイルガイドをきちんと読むようにしました。
- Pythonなら
PEP 8を読み、コーディング規約に沿って書く - TypeScriptなら公式のスタイルガイドや、ESLint+TypeScript向けルールを取り入れて書く
インフラおじさん(27年目)でも、こうしたコーディング規約を学び直しながらアプリを書き続けることで、
最終的には、自社サービス「ボイテキ!」をリリースできるところまで到達しました。
インフラだけではなく、アプリ側の都合や実装のクセも自分で体験することで、インフラ設計の解像度も一段上がったと感じています。
これは、若いエンジニアにこそ伝えたいことです。
インフラとアプリの垣根は、学べば越えられる。
どちらも理解して初めて、サービスの「全体像」が見えるようになる。
デファクトスタンダードを学ぶことが、プロへの近道
意外と盲点なのが、標準的な考え方(デファクトスタンダード)です。
例えば
- IPAの要件定義ガイドライン
- 非機能要件の整理の仕方
- フェイルオーバー設計の基本
- SLA / SLOの考え方
- 運用設計・障害対応フロー
- 監査対応やセキュリティ標準
- インフラ構成の基本パターン
- 各言語・フレームワークのコーディング規約(PEP 8 や TypeScriptのガイドラインなど)
こういったものを知らないと、設計書や提案書が一気に「なんちゃって設計」になってしまいます。
技術そのものは後からでもキャッチアップできます。しかし、「標準的な考え方」を知らないと、いつまでも属人的で再現性のない設計から抜け出せません。
インフラエンジニアとして長くやっていくなら、こうしたデファクトスタンダードを早いうちに押さえておくことを強くおすすめします。
★まとめ★インフラエンジニアの価値は「選定力・判断力・責任感」に宿る
インフラエンジニアは地味です。表には出ませんし、派手な機能を披露することもあまりありません。
でも、すべてのサービスの「命」を握っているのはインフラです。
- 資格は入り口
- 経験は財産
- 障害は最高の先生
- 選定力は武器
- 責任感は信用
そして、
インフラは「未来を守る仕事」です。
この世界に興味があるなら、ぜひ飛び込んでみてください。27年やっても、まだ学び続けるほど奥深くて面白い世界です。
これからインフラエンジニアを目指すあなたへ。
資格だけでも、技術だけでも、経験だけでも、人は育ちません。
インフラは「判断力」と「責任感」と「学び続ける心」で強くなります。
そして、アプリも覚えればもっと強くなります。サービス全体が見えるエンジニアになれます。
ようこそ、このワクワクする世界へ。
インフラおじさん(27年目)より。
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