OpenView:帝O、ネットワークを地図にした男たち
〜マップ芸とSNMP地雷の帝国〜
🌐 はじめに:ネットワーク全体を“見る”という発想
今でこそ、ZabbixもPRTGもある。GUIも洗練され、クラウドベースの監視も簡単になった。
しかし、1990年代〜2000年代前半、「ネットワーク全体を“視覚化”する」という試みは、それだけで革命的だった。
その先駆けが、HP OpenView──
通称、帝O(ていおー)である。
🗺 OpenViewの神髄、それはマップ
ルータ、スイッチ、ファイアウォール、サーバ、UPS……
SNMPで得られる情報を元に、グラフィカルなネットワークマップを自動生成する。
これがすごくて、そして地獄でもあった。
- 自動配置 → ぐちゃぐちゃ
- 並べ直す → 保存されない
- マップ上の線がなぜか変な方向に
- どうしても1台だけ「Unknown」表示
見た目の調整に何時間もかける、それが“マップ芸”の始まりだった。
🚨 SNMP地雷と格闘した日々
OpenViewの監視は主にSNMP(Simple Network Management Protocol)で行われた。
だがこのSNMP、シンプルな名前に反して地雷原だった。
- OIDの仕様がベンダーごとに違う
- SNMPv1でパケットが平文
- SNMP Trapのイベントが多すぎて埋もれる
- ネットワーク越しに届かない → ACLに拒否られる
あるいは
「SNMP Trapが無限ループして全アラートが赤になる」
──といったSNMP地獄に現場は慣れていった。
🎨 マップ職人の存在感
OpenViewを使いこなす者は“職人”と呼ばれた。
彼らは線の角度やアイコンの配置、階層構造の最適化までを極め、
「ネットワークは美しくなければならない」
という美学のもとに、「現場のネットワーク地図」を作り上げた。
それはしばしば、プロジェクトルームの壁にA3印刷され、現場の象徴となった。
👴 帝Oあるある
- HP-UX上でしか動かないバージョンに苦しむ
- 「openviewコマンド」で起動 → Xが落ちてると起動せず
- なぜか1拠点だけ監視不能(SNMPコミュニティ名違い)
- マップの保存ができない → “保存職人”の手を借りる
OpenViewの画面を開いた瞬間、「あっ……これは触らないほうがいいやつだ」と察するのがベテランの証だった。
📜 帝Oの遺産
OpenViewはその後、名称やラインアップを変えながら進化した:
- OpenView → Network Node Manager (NNM)
- → Operations Manager → BSMへ
だがその思想は今も受け継がれている。
可視化、階層構造、トラップ収集、SNMPポーリング、ルート原因の分析……
その発想は今の監視設計の基礎となった。
🎁 まとめ:「帝国」は消えても、思想は生き続ける
OpenViewは壮大だった。壮大すぎて、時代がついてこられなかった。
だがその「すべてを一望し、直感的に把握する」という思想は、今もインフラ屋の中に生きている。
もし今、あなたのチームが「ネットワークが見えない」と言っていたら、
帝Oの系譜をたどってみるといい。
📝 次回予告
「NetBackup:幻N、消えたはずのデータがない恐怖」
あの日確かにバックアップしたはずなのに──
“復旧できない復旧ツール”との戦いが始まる。
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